大変。きつい。など印刷会社の営業に対するイメージはあまり良いものではないようです。そこで印刷業界に興味のある方向けに、印刷会社の営業がいったいどのような仕事をしているのか、なるべく具体的にまとめてみることにしました。会社規模や組織体制、印刷方法等の違いから多少状況は異なりますが、どこの印刷会社もだいたい同じだと思います。
印刷という仕事の多くは何もないところから製品を作るので、モノづくりに興味のある方にとっては非常に面白い仕事だと思います。印刷工程に沿って印刷営業の仕事内容を説明していますので少しでもその役割を理解していただけたら幸いです。
具体的な仕事
- 仕事を受注する
- ヒアリングする
- 見積書とスケジュール表を作る
- 制作指示をする
- 校正のやり取りをする
- 印刷・加工・製本の指示をする
- 梱包・納品する
仕事を受注する
印刷営業は既存客へのルートセールスが中心です。会社から割り振られた既存客を小まめに訪問し、昨年実績を下回ることのないよう実績に対し漏れなく印刷物を受注することが営業として最低限の仕事です。これまでの発注時期や発注頻度、発注金額を把握し、事前にご案内をしていくことがとても重要です。そのうえで、仕様変更や新しい印刷依頼に対して提案及び見積書を提出し受注できるようにすることが求められます。
当然のことながら、見積書を作るうえで印刷工程やそれぞれの原価などの知識がないと積算することもできません。印刷に関する知識がなければコストダウン提案や目的を達成するためのより使いやすい印刷仕様の提案をすることもできません。
異業種から印刷業界にチャレンジしてみようと考えている方は、いきなり営業に行かされるような会社ではなく、覚えるまで辛抱強く教育してくれるような印刷会社を選ぶようにしましょう。
ルートセールスは、小まめに足を運び顧客担者者とコミュニケーションを深め信頼関係を構築することがとても重要です。印刷会社の製品というのは、顧客のオーダーメイドで制作することが多いため、営業には印刷物を納品するまでに多くの役割が求められます。仕事を受注した後も、原稿を受取りに伺ったり、レイアウト編集した出力紙を持参して校正してもらったりと、頻繁に顧客のところに通うことになります。こういった一つ一つのやり取りの中で顧客との信頼関係を構築していくのです。
製品ができるまで何度も行き来するため、レスポンスの良し悪しも顧客満足度を左右する重要な要素となります。遠方の顧客ではレスポンスが悪くなると同時に営業効率も悪くなります。そのためほとんどの印刷会社では近距離の顧客と取引をしています。
しかし、それだけでは売上を維持することもアップすることも見込めませんから、第一段階として既存客に対して新しく印刷物を発注してもらえるような提案をする必要があります。第二段階として、新規顧客獲得を目指していく必要があります。どちらにしても、顧客のビジネスモデルを把握し、顧客と顧客担当者のそれぞれにメリットのある提案をしていくことが売上アップに欠かせません。
提案営業についてはこちらを参考にしてください。
新規開拓についてはこちらを参考にしてください。
ヒアリングする
仕事の依頼や相談をうけたら、具体的にどのような印刷物を作りたいのかヒアリングします。具体的には下記の項目のヒアリングを行ないます。下記の項目を決めなければ正確な見積書を提示することはできません。
ヒアリングする項目
- 印刷物の目的は何か?
- 誰に渡すものか?
- デザインはどんなイメージか?
- 他社他業種の実物サンプルなどはあるか?
- 仕上りサイズは?
- カラー印刷かモノクロ印刷か?
- 紙質、紙の厚さ、色味?
- 印刷部数は?
- 製本・加工は必要か?
- 納品形態はどうするのか?
- 納品場所はどこか?
- 希望納期はいつか?
- 印刷物以外に必要なものはないか?
- データ支給かデザイン・編集から始めるのか?
そのほか企画・デザイン・取材・コピーライティング・撮影・翻訳などは必要かなど
しかしながら、顧客担当者もどのような印刷物を作ったらいいのか具体的にイメージできていない場合もあります。具体的にならないと見積書を提出することができませんので、顧客のビジネスモデルを理解し担当者の立場にたって、どのような印刷物が必要なのか営業が先回りし提案しながらイメージを引き出していきます。
それでも具体的にならない場合は、イメージに合いそうな印刷サンプルなど改めて持参するなどして具体化していきます。
ヒアリング時によくよく聞いてみると、プランニングやマーケティングが必要な場合もあります。たとえば、WEBサイトやSNSと絡めた集客ツールを作りたいとか、イベントや展示会への出展を検討していて企画・運営・管理を任せるところを探しているなど、単純に印刷物だけを作るだけではない場合もあります。
このような場合、印刷会社によっては事業領域を越えてしまう場合がありますから、外部協力会社に見積りを依頼することを検討する必要があります。
顧客担当者と最終イメージに相違があると、何度も見積書を提出することになったり、印刷してから思っていたものと違うということにもなりかねません。顧客担当者とイメージが共有できるまでしっかりコミュニケーションを図りましょう。
見積書とスケジュール表を作る
見積書が提出できそうなくらい詳細が決まったら、見積書とスケジュール表を作っていきます。
ルーチンの仕事ですでに単価が決まっている場合には見積書を提出することはありませんが、顧客サイドの都合で仕様変更になったり、新しく印刷物を作る場合には必ず見積書を提出します。
基本的には営業が単価表をもとに見積書を作成しますが、印刷会社によっては見積りを作ってくれる担当がいる場合もあります。小さな会社ではすべての見積書を社長が作っているところもあります。
積算する項目
- デザイン・編集費
- 紙代
- CTP代
- 印刷代
- 製本・加工代
- 梱包代
- 送料
- 利益
上記すべてを合計したものが売価となります。
それぞれの項目の積算方法については、改めてまとめてみたいと思います。
見積書には、印刷部数×一部(枚)当たりの単価=合計と記載します。一部当たりの単価が実際には流通していない〇円以下の“〇〇銭”となることもよくあります。
当然のことながら、顧客は数社の印刷会社と取引していますから、営業として担当している顧客がどこの印刷会社に、どんな印刷物を、いくらくらい発注しているのかといった情報も探っておかなければいけません。また、新規参入してくる印刷会社にも警戒する必要がありますし、印刷通販に発注しているかも調べておきましょう。
基本的には単価表に基づいて積算するのですが、どうしても獲得したい案件のときは競合他社を意識した特値で提示したりします。
見積書ができたら、次に納品までのスケジュール表を作ります。
基本的には、納期から逆算してスケジュールを検討します。発送に必要な日数、製本・加工の日数、印刷日数、校正日数や校正回数など後工程から順番に当てはめていきます。
いつ初校を提示するのか、いつまでに校了し、いつから印刷するのか分かりやすくエクセルなどで表にしたものを顧客に提示します。特に校正にかかる日数は顧客担当者の都合もありますので、スケジュールに関しても顧客と共有しておく必要があります。
顧客と詰めたスケジュールは社内でも共有し、スケジュール通りに進行するように各工程で予定してもらいます。工程管理専門の部署がある印刷会社もあれば、営業が管理する会社もあります。
制作指示をする
顧客から原稿や素材が支給されたら実制作に入っていきます。
たまに原稿や素材がまとまらないという担当者もいますので、こちらからどういった原稿が必要なのか伝え、一緒に資料をまとめながら原稿作りから始めることもあります。
原稿や素材のまとまり状況をみて、作り始めるべきか判断する必要があります。スケジュールのこともありますが、原稿や素材がまとまっていない段階で制作に取り掛かるとやり直しが多くなり手間と時間が掛かってしまいます。
クライアントから支給された原稿や素材をもとに、DTP編集に制作指示をします。
DTPオペレーターがグラフィックデザインを出来ないようなケースでは、グラフィックデザイナーに依頼する必要があります。DTPオペレーターとグラフィックデザイナーの違いはまたあらためてまとめてみたいと思います。
顧客と共有したイメージを制作担当者に伝えます。顧客と営業と制作の三者が同じイメージを共有できるようにします。伝言ゲームのように後工程に行けばいくほど情報が漏れてくるので、情報漏れが無いようにするのも営業の役割の一つです。
イメージを共有するということは非常に難しいことなので、サンプルなどあるとより具体的なイメージが伝わりやすくなります。
印刷会社によっては、営業と制作の間に制作ディレクターといわれる人(部署)が入る場合もあります。
校正のやり取りをする
すべての原稿及び素材をもとにDTP編集・グラフィックデザインを行なったらスケジュールに従い顧客担当者に提出し校正してもらいます。初めて校正(チェック)してもらうことを「初校」といい、二回目は「二校」といいます。
原稿の指示通りになっているか間違っているところはないかなど確認してもらいます。その内容をDTP編集に伝え修正してもらいます。修正内容やスケジュールによって何度かやり取り「校正→修正→校正→修正・・・」を行ない、もう修正するところがなくなる(校了)まで続けます。
カラー印刷の場合、「色校正」というのを行ないます。実際の印刷機・実際の紙で印刷する「本機校正」、実際の紙で校正刷する「本紙校正」をおこない、より仕上りに近い色で校正してもらいます。
校了になったら、印刷に使う刷版とよばれるアルミ版を作ります。作るというよりもプリンターに近いイメージですが、CTP(コンピュータ・トゥ・プレート)機にデータを流すとアルミ版が出来上がります。
印刷の指示をする
校了となったら、次は印刷工程です。
印刷するには、印刷機と印刷機に取り付けるアルミ版とインクと紙が必要です。
インクは印刷オペレータが準備していますが、印刷用紙は営業が紙問屋に必要な枚数分を手配しなければなりません。見積り時にどれくらいの印刷用紙が必要か分かっているのでその数量を発注します。
会社によっては、工程管理の部署などが全ての印刷資材の仕入について、コストダウンを行ないながら仕入れをしているところもあります。
特にカラー印刷の場合、「色校正」に合わせて印刷を行うのですが、念の為に営業が最終確認をすることもあります。
仕事を受注する段階で分かっていることですが、自社の印刷機では印刷できない仕様だったりすることがあります。このような場合には、協力印刷会社に依頼する必要があります。この発注も会社によっては営業が行ないます。
印刷が終わると製本・加工も同様、自社で出来るものと出来ないもの、あるいは自社が忙しく入らない場合には協力会社で作業してもらいます。
梱包・納品する
印刷・製本・加工が終わったら梱包です。まとまった部数をクラフト紙という茶色の紙で包んでガムテープで留めます。入れる部数は、印刷物の厚さによってまちまちです。急いで納品しなければならないようなときには、営業もお手伝いしなければなりません。
まとめ
きついと言われる印刷営業の仕事ですが、会社のバックアップ次第で営業の負担が大きく異なります。何でも営業任せにする会社ではやはりきつい仕事といえます。
印刷会社を選ぶ際は、教育環境や制作環境など営業が余裕を持って顧客に専念できる体制が整った印刷会社を選ぶようにしましょう。
印刷会社の営業には、印刷物ができるまでのあいだにさまざまな役割があります。モノづくりの観点からみると非常に面白いのではないかと思います。営業にとっては売上を伸ばしてこそ会社から評価されるわけですが、同時に品質にこだわらなければ顧客からの評価は得られません。両方を追求するためには、印刷に関する知識はもちろん、担当する顧客の情報、顧客の業界情報など様々な知識が必要です。